デザイナー・古田泰子手がけるTOGAが2022年春夏シーズンのコレクションをロンドンで発表した。今回のショーは70年代のアメリカを彩ったゴードン・マッタ=クラークの作品からインスピレーションを受け、制作された。
ゴードン・マッタ=クラークとは何者か
彼の行った芸術活動を一言で形容することには困難を要する。彼のアプローチの仕方は多様で、様々な視点を携えながら、主に人々の都市活動に関してメッセージを提示した。あるときは近代的な都市空間への批判を、またあるときには考古学的なアプローチからイデオロギーを提示した。言うなれば、都市に介入しながらクリティカルなアートプロジェクトを行ったアーティストとでも言えるだろうか。
彼の作品の中で一際目を引くのが1974年に発表された『スプリッティング』である。
スプリッティング-1974年
ニューヨーク郊外にある一軒家を真っ二つにしたこの作品は、財政難から空き家が点在していた当時のニューヨークの状況を批判・嘲笑するものであった。都市と建築はたまた人間の間に歪みが生じていること、近代都市の仕組みが今起こっている諸問題に対してソリューションを示せていないことをこの作品を通して訴えた。彼のメッセージの根幹にあるのは、あくまで都市生活の中にある人・建築などの諸要素から生じる化学反応の歪みなのである。
都市に対して打ち出した彼の試みをもう一つ紹介させてほしい。
日の終わり-1975年
封鎖された港の倉庫に壁に穴を開け、《日の終わり》と名付けた。太陽の位置、時間帯を計算しつつ、開けられたこの穴を通じて、入り込む光の加減は変化していく。真っ暗になったとき、日の終わりを実感するという具合である。
このように、彼は都市のに溢れる無数の光景、情景をある種の「素材」として実験的なアート活動を行った。それらに加工を加えることで全く新しい後継、概念、感情が生まれてくる。彼が行ったのはゼロから一を生み出す従来のアートではない。都市での生活を基準とした、生活に寄り添うアートなのだ。
彼が行ったアート活動は、約半世紀の時を経て再解釈された。
吉田泰子はいかにゴードンのエッセンスを引き継いだか。次回、TOGAに見られるクリエイションとゴードン作品の合致点を検証していきたい。