この記事では、前回まで解説してきたゴードン・マッタ=クラークの都市への介入を通したアート活動を2022ssシーズンに発表されたTOGAのコレクションと結び付けて紹介していきたいと思う。

吉田泰子手掛けるTOGAは、ゴードン・マッタ=クラーク作品の中から『スプリッティング』『グラフィティ』『フード』の三作品から特にインスピレーションを受け、作品を発表した。都市における人々、生活に介入することによってメッセージを打ち出してきたゴードンの姿勢はどのようにして継承され、表現されたのだろうか。

既存の「モード」への介入

TOGA 2022SSシーズン

今シーズン発表されたコレクションピースの中で多くを占めたのがテーラードのジャケット、それに「ナンセンス」にも組み合わされたスカートのスタイリングである。美しく仕立てられたジャケットにスカートがタックインされたことでアンバランスかつアーキテクチュアルな、なんとも新鮮な造形を生み出している。

私はこのスタイルから、デザイナーが投げかけるモードへの疑問符、都市生活の中での凝り固まったドレスコードへのアンチテーゼを読み取った。

モードへの疑問符

タックインされることによってジャケット単体としての比率、シルエットは最早意味を持たない産物と化している。現代において我々はラペルの幅がどうだとか、丈がどうだからとさまざまな評価軸に基づいてジャケットを評価している。このスタイリングはそのような議論、価値観を抜本的に塗り替えるような試みである。いわばスタイリングにおける調和の概念を塗り替えるための試みとでも言えようか。

都市生活への介入

また、スーツの用途において、主流を占めるのは未だにビジネスシーンである。そして当然それらの服装を纏った人々をよく目にできるのは都市生活の中である。

この点においてゴードンの都市への介入の流れを汲み取っているように思える。デザイナー吉田もまた都市生活の中での一部を占める「スーツ」という媒体に挑戦を投げかけることによって、都市生活に介入したのだ。

コロナ禍で我々のビジネスにおけるドレスコードの認識は一変した。リモートワークを機に我々はより楽で、負担にならないジャケットを選ぶようになってきた。これまで長きにわたって凝り固まっていた「スーツ」の概念が今変わろうとしているのである。この点においてゴードンが生きた1970年台のニューヨークと重なる部分がある。当時の混沌とした街並み、さまざまなものが台頭しては衰退していくその街の移り変わりを吉田はドレス産業における概念の変化に摺り合わせたのではなかろうか。

このコレクションにおいて行われた試みは、服のコードという凝り固まった概念に手を加え、角度を変えてみることで大きな違和感、変化をもたらす試みであるといえる。

ジャケットとスカートというそれぞれ単体では広く用いられているなんの変哲もないアイテムをぶつかり合わせることによって、大きな違和感、化学変化をもたらした。この試みとはまさに第1章で説明した、ゴードンが行った試みそのものである。

今、ウイルスの蔓延や戦争の勃発によって社会に様々な面で歪みが生まれてきている。ゴードンの作品が引っ張り出されてきた理由は、ここにある。その僅かな変化に目を向け、スーツという媒体を通して問題提起をなした吉田の試みはあっぱれである。

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