2.イブニングドレスの再解釈:PRADA

ミュウォッチャ・プラダとラフシモンズが共同で手掛けた初のリアルショーは上海とミランにて同時刻に行われた。イブニングドレスに含まれるディテールへの再解釈を行った。

・紐が緩められたコルセット:本来これでもかというほど腰を締め付け、女性のウェストの細さを強調するためのコルセットであるが、本コレクションに登場したコルセットの紐は緩められている。
これはコルセットの目指すところの「細いウェスト」と真っ向から対峙した、ある種コルセットへのアンチテーゼのように感じた。特定の記号を含蓄したコルセットを「利用」することで新たなメッセージを紡ぎ出す。

・トレールの再解釈(:PRADA)
ウェディングドレスの裾部分を指すトレーンを再解釈した。従来トレーンが長ければ長いほどエレガントで美しいというようなイメージが浸透する世の中に、プラダはごく簡素化された新しい「トレーン」を発表することでその概念に疑問符を投げかけた。トップスと不調和な様子、「引き摺れば美しい」とされるトレーンの持つ記号を利用することで、従来の概念を嘲笑うかのようなデザイナーの意図が感じ取れる

3.「Dior」:1961年の「Slim Look」から着想を得た、ミニ丈のスカート、ドレス

Diorウィメンズのアーティスティックディレクターを務めるマリア・グラツィア・キウリは、1961年よりDiorのデザイナーを務めたマルク・ボハンの提案した「Slim Look」に着目した。63年ごろから始まる第二波フェミニスト運動としての「ウーマンリブ」前夜のこの時代。女性の社会進出への目が少しずつ向けられるようにはなるものの、依然、いわゆる「女性らしい」振る舞いが好まれ、ファッションもそれに追随した。キュートでスリムなシルエットを生み出すこのスタイルだが、デザイナーの意思の所存は決してこの時代を復刻させるところにはないと思う。この女性の社会運動の流れが広く広まった今という時代に復刻することで起こるであろう化学反応に期待したのだと私は推測する。つまり、コロナ禍の中発表されたこのコレクションは、男性に媚びるための女性性や、最早女性の「社会進出を」というフェミニズムの動きすら放っぽって、「自分自身」を示す、それ以上でもそれでもないイデオロギーがそこにはあるのだと考えるのだ。
マリア・グラツィア・キウリはインタビューにこう答える。“Something graphic and clean, minimal and positive. Because I think we have to give an optimistic outlook to the future “
果たしてこのSlim Lookが持つ意味をどれほどデザイナーが考慮してコレクションに落とし込んだのか、このインタビューのみでは知る由はないが、未来に向けて強いメッセージを示そうとしていたことは確かであろう。

4.これらの潮流が発生したのはなぜか

これまで見てきたように2022ssシーズンは歴史的に生成された特定の「記号」への再解釈を行うことで全く新しいスタイル、着る者の個性を際立たせるような表現が散見された。
このことを現在の時代性に当てはめて考えた時、やはり人々を取り巻くパンデミックが新しく作り出した生活スタイルは要因である候補の一つとして見逃せない。パンデミックが私たちに自粛することを余儀なくした新しい生活スタイルは、世の中に蔓延る「常識」に向き合う時間を人々に与えた。その結果私たちは他人に流されない「純粋な私」他人を想定しない「単体としての私」を見つけ出したのではなかろうか。新しく発見した「本当の自分」を表現するための洋服が、今期のコレクションには、ある。

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