未来への楽観的なメッセージ性を帯びた、カラフルなファッションショーがパリにて行われた。
今シーズンDiorのコレクションは、3代目にアーティスティックディレクターを務めたマルク・ボアンが1961年に発表した「スリム・ルック」から着想を得ており、ショー演出にはイタリア人アーティストであるアンナ・パパラッチも関った。

ショーの演出について
今季のショーは新型コロナウイルス蔓延後初めててなる対面でのショーであり、新たな幕開けとしての意味を持つショーであった。そんな中行われたショーは従来のランウェイのショー形式を逸脱した、全く新しい形式のものであった。

モデルたちが闊歩するセットは双六のような円盤状のものであり、アーティスト・アンナ・パパラッチが手がけた1964年に製作した「Il Gioco del Nonsense(ナンセンスのゲーム)」をもとに作られている。

変わるがわるモデルたちが登場して円盤のセットを歩く様子はとても斬新であり、ファッションが持つ何某の特異性とマッチするように感じた。
デザイナーであるキウリはこう話す。

“You have to ask, Why do you do your job? Why are people interested in fashion?”
『「どうしてその仕事が好きなの」「どうしてファッションが好きなの」ってことを考えなきゃ』
“I think you have to accept that fashion is a game. Like all games, there’s a part that is serious and a part that is fun. “
「ファッションは真剣な面も楽しい面も兼ね備えたゲームだってことを受け入れないと」
“People love fashion because it helps them perform in their lives. People dress to represent themselves in the moment, and they are performing in a different way, changing all the time. “
「みんな、人生において自分を表現できる大事な機会だから、ファッションが好きなのよ。その瞬間を切り取って表現できるから。そしてその方法は常に移り変わっていく。だからこそ着飾るの」
“And the show is the performance of fashion; it’s also a performance art.” 
So at the end you have to accept that you want to play this nonsense of a game.”
「ショーっていうのはね、ファッションのパフォーマンス、表現なの。同時にアートの表現でもあるわね。そして最後にはこのナンセンスのゲームを単推し網としてるってことを受け入れないとね。」

Vogue Runway coverageより(https://www.vogue.com/fashion-shows/spring-2022-ready-to-wear/christian-dior

このショーに、アンナ・パパラッチなりのファッション、ファッションショーへの解釈が表れていることがこのインタビューから見てとれる。
このことを内容を踏まえたうてでショーを改めて見てみると、私自身改めて感じることがあった。
”ファッションにおいては、誰もが主役にも脇役にもなり得る”ということだ。
ファッションにおいて、衣服を見に纏う時、皆が主役となる。確かに、ランウェイを歩くのは高身長で顔立ちの良いモデルであり、一見ファッションにおける主役はモデルにも思える。しかし、衣服とは人々に着られてなんぼのものであり、ファッション、流行とは生活を営む人々の生活無くして成り立たないものである。近年盛りを見せているファッションスナップや、私たちの日常について再考してみると分かるように、ファッションとは衣服を纏って生活を営み私たち皆が存在しなければ成り立たない存在なのだ。衣服を纏うことで心躍らせる機会は誰もが平等に与えられている。同時に、誰かがスポットライトを当てられたときはその他全員が脇役となり得る。誰もが主役であって、誰もが脇役であるのだ。このような、人を主役、脇役の両方になりさせしむる側面をファッションは持っている。
また、このショーで使われたセットは双六のような、円盤状のものであるが、双六と聞くと、私は人生ゲームのような多面性を持つ、波瀾万丈なものを連想せずにはいられない。カラフルで、歩くたび高さや色が移り変わっていくこのセットの構造が、紆余曲折、様々なことが起こり得る人生との共通性を感じさせる。様々な「常識」が作られていく昨今でなければ生まれ得なかった、時代に寄り添った作品と言えるだろう。
社会に対して疑問を投げかけ、アートを通してメッセージを発信したアーティストの作品がショーに取り入れられることで、新たな化学反応を起こし、ファッションの特異性、現代の社会の現状とマッチする作品となり得たのだ。

コレクションピースの特徴

コレクションピースに注目してみると、マルク・ボハンのコレクションから着想を得ただけあって当然「スリム・ルック」の特徴が現れている。
スリムルックの特徴としては、長めのジャケットとタイトなスカートからなる綺麗なIラインが挙げられ、女性の体のラインを美しく見せるスタイルとして、創業者クリスチャン・ディオールに次ぐ革命としてファッションの歴史に名を刻んだ。

このコレクションへのリスペクトを示したコレクションであるのだが、現・デザイナーを務めるキウリのクリエイション力は当時のヴィンテージコレクションに留まるものではない。
彼女の特徴であるプラグマティックなテイストに結びつけ、現代のムードを掴んだコレクションに仕上げた。

あくまで「スリム・ルック」のシルエット、バランスを出発点として、素材の面でハードに仕上げてみたり、ボトムスをボクサーパンツに変えたりなど、現代のスタイルに沿ってアレンジされた仕様が面白い。
スリム・ルックが発表された当時からジェンダーの面で人々の観念は大きく変化した。当時のように固定化された「女性観」は影を薄め、多様化の流れが広まってきた。そのような時代を象徴するかのように、時代を追って培われてきた、特定の記号(ボクサーパンツはスポーティ、ミリタリーは無骨など)を用いて、新たなイデオロギーを示そうとしている。その様がとても興味深い。

ショーの演出、コレクションピースの両方の面で時代に沿ったメッセージ性を示した今回のDiorのショーはとても秀逸であったと言えるだろう。特にファッション史の一端を担う「スリム・ルック」が現代風にアレンジされ、デザイナーの捉える現在の女性像が投影されたという点が興味深かった。もし今後、「スリム・ルック」がアレンジされるとすれば、どのようなアレンジがなされるだろうか。「スリム・ルック」を定点として今後紡がれていくファッションの歴史をこの目で見てみたい。

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